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名古屋高等裁判所 昭和28年(ラ)59号 決定 1954年2月25日

申立人 永尾ふさ子

被申立人 斎藤志づ

訴訟代理人 鈴木貢 外二名

主文

本件抗告を却下する。

理由

抗告代理人は、名古屋家庭裁判所が昭和二十四年九月十五日なした別紙第一の決定並同月十七日になした別紙第二の決定は何れも之を取消す、又は申立人(永尾ふさ子)が一定の期間内に金千万円又は裁判所が相当と認むる保証金を供託しないときは名古屋家庭裁判所が昭和二十四年九月十五日になした別紙第一の決定並同月十七日になした別紙第二の決定は何れも之を取消す、又は少くとも名古屋家庭裁判所が昭和二十四年九月十五日になした別紙第一の決定中第四並同月十七日になした別紙第二の決定は何れも之を取消すとの決定を求め其の抗告理由は別紙の通りであつて家事審判法第七条非訟事件手続法第二十条の規定によつて抗告の申立をすると謂うのである。

仍て職権により本件抗告の適否について審理するに原審のなした別紙第一、第二の決定は事件申立人の遺産分割審判申立につき原審が家事審判規則第百六条第一項により審判手続終了に至る迄の必要なる処分としてなしたものである。ところが家事審判法第十四条は審判に対しては最高裁判所の定めるところにより即時抗告のみをすることができる旨を定めているのであるから審判に対しては通常の抗告は許さないこと明かである。そして同法条に謂う審判とは同法第九条に列挙する審判のみならず別紙第一、第二の決定の如く審判手続終了に至る迄の仮の処分を定むる決定も亦之を包含するものと解するのを相当する。従つて別紙第一、第二の決定に対しては家事審判法第七条非訟事件手続法第二十条による通常の抗告は之をなし得ないものと謂わなければならない。又家事審判規則第百六条第二項は家庭裁判所は相当であると認めるときは同条第一項による処分を取消又は変更することができる旨を定めているが同条第一、第二項による処分に対して即時抗告をなし得べき規定は同規則にないから別紙第一、第二の決定に対しては即時抗告も亦之をなすことを得ないのである。尤も別紙第一の決定第二項は遺産分割協議並に之に基く登記手続を禁止する旨を定めており家事審判規則第百十一条は遺産の分割禁止の審判に対しては即時抗告をなし得べきことを定めている。そこで右原審の決定が遺産の分割禁止の審判であるかどうかを考えるに同規則第百十一条に謂う遺産分割禁止の審判とは民法第九百七条第三項家事審判法第九条乙類第十号の審判を謂うのであつて別紙第一の決定第二項の如き手続終了に至る迄の仮の処分を謂うのはでないから之につき即時抗告をなし得ないことは言を俟たない。

以上の如く別紙第一、第二の決定に対しては通常抗告はもちろん即時抗告もなし得ないのであるから本件抗告は不適法である。仍て本件抗告を却下すべく家事審判法第七条非訟事件手続法第二十五条民事訴訟法第四百十四条第三百八十三条第百十四条第二項に従い主文の如く決定する。

(裁判長裁判官 中島奨 裁判官 石谷三郎 裁判官 縣宏)

(別紙)

決定(第一)

一、被申立人及利害関係人等は被相続人亡斎藤米次郎の共同相続人なりとして同被相続人の全遺産に付遺産相続による共有登記手続をしてはならない。

二、被申立人及利害関係人等は被相続人亡斎藤米次郎の全遺産に付分割協議並に之に基く登記手続をしてはならない。

三、被申立人及利害関係人等は被相続人亡斎藤米次郎の全遺産に付売却贈与質権抵当権の設定其の他一切の処分をしてはならない、又その占有名義を変更してはならない。

四、被相続人亡斎藤米次郎の遺産は申立人と被申立人間の遺産分割の審判申立又は調停完了に至るまで別に定める管理人の管理に付することあるべし。

決定(第二)

本件審判又は調停の終了に至るまで被相続人亡斎藤米次郎の遺産管理人として弁護士近藤亮太を選任する。

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